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東京地方裁判所 平成8年(ワ)18917号 判決

原告

バンクゲゼルシャフトベルリン株式会社

右代表者取締役

フベルツス・モーザー

外四名

右訴訟代理人弁護士

太田秀夫

近藤浩

右訴訟復代理人弁護士

武藤佳昭

豊原信治

被告

宮越商事株式会社

右代表者代表取締役

宮越澄人

右訴訟代理人弁護士

鈴木一郎

北本善彦

主文

一  ドイツ連邦共和国ベルリン地方裁判所が平成六年八月一七日言い渡した別紙(1)の判決、同裁判所が同年一一月八日にした別紙(2)の決定及び同裁判所が同年一一月二二日にした別紙(3)の決定に基づいて、原告が被告に対して強制執行をすることを許可する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

主文と同旨

第二  事案の概要

一  請求原因

1  外国裁判所の確定判決

原告は平成六年五月一六日、被告に対しドイツ連邦共和国ベルリン地方裁判所に保証債務の支払を求める訴えを提起し(同庁事務番号九四・〇・一三四/九四号事件、以下「本件訴え」という)、同裁判所は、平成六年八月一七日、被告に対し、金100万0388.39ドイツマルク等の支払を命じる別紙(1)記載のとおりの判決(以下「本件外国判決」という)を言い渡し、右判決は確定した。

右判決につき同裁判所は平成六年一一月八日、訴訟費用額を確定する別紙(2)記載のとおりの決定をし、右決定は確定した。

更に右判決につき同裁判所は、平成六年一一月二二日、訴訟費用額を確定する別紙(3)記載のとおりの決定をし、右決定は確定した。

2  民事訴訟法一一八条各号の要件の充足

本件外国判決は、次のとおり、民事訴訟法一一八条各号の要件を充足している。

(一) 国際裁判管轄権の存在

本件外国判決の対象となったのは、原告の被告に対する保証債務請求事件であり、右事件に関する平成五年七月一三日付け保証状によれば、本保証状に関する管轄権は、原告の判断によりベルリン又は東京のいずれかの裁判所が有するものとされている。原告はベルリン地方裁判所に訴えを提起したのであるから、同裁判所は右事件につき管轄権を有している。

(二) 適法な送達がなされたこと

日本及びドイツはいずれも民事訴訟手続に関する条約及び民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約(以下「送達条約」という)の締約国であるが、送達条約二二条により両国間における民事又は商事に関する裁判上又は裁判外の文書の送達については送達条約が適用されるため、本件送達については送達条約の定める手続によることとなる。

ベルリン地方裁判所の訴訟手続の開始に際し、翻訳文の添付された平成六年五月一六日付け訴状謄本及び同裁判所の期限付答弁書提出催告書(以下、これらの書類を「本件訴状等」という)は、同裁判所の嘱託を受けた在東京ドイツ大使館によって日本国内で配達証明付き書留郵便に付され、同年七月四日に被告従業員が任意受領したことによって送達された。これは送達条約八条一項の領事送達に該当し、以下の理由からも適法な送達方法である。

送達条約八条一項の領事送達をなすべき具体的方法については、同項ただし書において「その送達又は告知は強制によらないものに限る」と定められている外は定めがない。日本の書留郵便は、名宛人が受領拒絶をすることができるものであり、その受領が強制されているものではないから、強制によらないものといえる。

ドイツは送達条約八条二項の拒否宣言をしているが、これは他の当事国がドイツ国内で当該当事国以外の国の国民に対して領事送達をできないというだけであって、ドイツは他の当事国における自国領事による送達については拒否していない。被告が主張する条約法に関するウイーン条約二一条一項bは、条約の当事国が留保を付した場合には当該条約の効力が当該当事国との関係では当該留保の限度において変更されるという当事国の留保が条約に与える効力を定めたものに過ぎない。日本は右拒否宣言をしていないのであり、ドイツ領事による日本での送達が禁止される理由はない。

(三) 防御の機会が与えられていたこと

民事訴訟法一一八条二号の制度趣旨は、外国訴訟の告知を受けることなく、防御の機会を与えられないまま敗訴した被告を保護する点にあるが、本件では訴状謄本は被告に現実に送達されたこと、訴状謄本には翻訳文が添付されていたこと、被告はドイツに子会社を有し、ドイツ国内で事業を行う商事会社であること、被告はドイツの法律事務所と接触していたこと等にかんがみれば、被告には防御の機会が与えられており、本件送達はこの点も満たす。

(四) 公序良俗に反しないこと

本件外国判決は、被告の子会社が原告に対して負った銀行取引債務に対する保証債務の履行請求に関するものであって、日本の公序良俗に反するような内容のものではない。

(五) 相互保証の存在

ドイツにおいては、日本の裁判所がした財産法上の争いについての判決が、日本民事訴訟法一一八条各号所定の条件と重要な点で異ならない条件のもとに効力を有するものと認められ、ドイツと日本との間には相互の保証が存在する。

3  よって、本件外国判決は民事訴訟法一一八条各号の要件を満たし、民事執行法二四条三項の定めに抵触するところがないから、原告は同法二四条の規定に基づいて、被告に対する本件外国判決及び本件各費用額確定決定による強制執行を許可する旨の宣言を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1記載の事実は知らない。同2の(一)記載の事実は認める。同2の(二)ないし(五)記載の事実は否認する。

三  被告の主張

1  本案前の抗弁

本件請求の趣旨は債務名義となる部分の特定に欠ける。外国裁判所の判決の特定とその主文に相当する部分のみが執行判決には明示されるべきであり、執行機関に給付内容の判断が不必要な程に債務名義の内容を一義的に判然と理解できるよう特定してなされねばならず、それ以上の不明瞭な部分を含まないように表示しなければならない。よって、本件請求の趣旨は不適法であり、却下されるべきである。

2  債務名義の不確定

本件外国判決は平成六年八月一七日に下されたが、ドイツ民事訴訟法一七五条により、郵便に付する送達の手続により行われ、異議申立期間は右郵便に付した日すなわち平成六年八月二二日から起算され、一か月後に被告への実質的な又は送達条約に適合した送達を待たずに確定したとされた。同年一〇月二四日に本件外国判決は被告に到達し、被告は右郵便を同年一一月二二日、配達証明郵便でドイツ大使館へ返送した(同年一一月二四日到達)ため、ドイツ領事館がこれを任意受領すなわち送達完了と見なすことができなかったためか原裁判所は再び送達条約に基づいた中央当局経由の訳文添付の方法により、東京地方裁判所を通じて平成八年六月一八日特別送達により送達をしている。被告はこの間の全ての原裁判所の送達手続の適法性を否定する。したがって、本件外国判決は送達されたことの主張立証がなく、債務名義は確定していない。

3  本件訴状等の送達の違法性

原告は、本件訴状等の送達は送達条約八条一項の領事送達に該当すると主張するが、以下の理由から、右送達は違法である。

(一) 送達条約八条一項の送達は強制によらないものに限るとされる。つまり、名宛人本人か又はその書類受領権限あると意思表示できる者を直接領事の面前に任意で呼び出し、又は領事がその住所に訪問し、任意の受取りをするかどうかを確かめ、これを肯定するときに手渡す方法に限るということである。これに反して領事が郵便を使用して行った本件訴状等の送達は送達条約八条一項の規定に違反する。

(二) 本件送達はドイツ領事が日本の郵便を用い、宛名を被告会社とし、封筒の中に訴状、呼出状及び到着後二〇日間以内に領事官に返送しなければ領事官は文書を任意受領したものと見なし、そうしたときは、送達が有効になされたものと見なすことをドイツ語で書いた訳文なしの手紙を挿入してなされたものであり、被告会社代表者本人ではなく被告会社の従業員である事務員に交付されている。日本人に対し、不案内なドイツ語の手紙において、二〇日間以内に返送しなければ有効に送達されたものと見なすという領事の一方的な宣明は強制によらない任意のものとは言えない。また、本件郵便は内容物の不明な郵便を受領することを拒絶する決定権を有していない一従業員に配布されており、任意のものとは言えない。

(三) 送達条約八条二項では各国は自国の領域内での他国の領事送達権能の行使を拒否することを宣言することができるとしており、ドイツはこれに従い、同条の外国領事によるドイツ国内における送達について拒否宣言をしている。日本はこの拒否宣言をしていないが、ドイツが右送達方法を拒否している以上、条約法に関するウイーン条約二一条一項bに基づき各加盟国の相互性が尊重されることから、ドイツとしては他国に対し、ドイツ領事の郵便による送達実施の適法性を主張し得ないとされるべきである。

(四) ドイツ民事訴訟法一九九条に基づく送達は同法二〇二条一項によれば裁判が行われる裁判所の裁判長が必要な依頼書を作成するとされ、実務ではZRHO(民事事件の法的援助命令)が適用されている。これによれば日本は昭和二九年三月一日の民事訴訟に関するハーグ条約及び送達条約の締約国であることを報告し、さらに以下のように決めている。

① ドイツの在外代表部は自己の管轄範囲で下記の案件を処理することができる。

a 送達受理者の国籍と無関係に行われる形式なしの送達依頼

② 外の案件の場合には日本の官庁に依頼しなければならない。

これは、送達条約八条一項の送達は強制によらないものに限るという条項を受けたもので、「形式なしの送達」の意味は名宛人本人か又はその書類受領権限あると意思表示できる者に直接手渡すということである。

したがって、形式なしの送達以外は日本の官庁に依頼しなければならないのにもかかわらず、東京地方裁判所に嘱託しなかった本件の送達はドイツ国内法秩序に反したものである。

なお、ドイツ民事訴訟法一八七条は、送達の瑕疵の治癒の規定をおく。しかし、これについても国外での送達の瑕疵については、そもそもドイツ法上その適用が認められないと言うべきである。また、ドイツ法に優先する送達条約においてはこのような瑕疵の治癒が認められていないのである。

4  本件訴状等の送達その他の訴訟手続における被告の防御権を実質的に侵害する事由の存在

(一) 被告は、本件訴訟費用額確定の決定手続について、何ら審尋の機会を与えられていない。被告に何らの弁明の機会も与えない手続である右訴訟費用額確定決定の裁判は執行判決の対象にならない。

(二) 本件外国判決は、一九九四年(平成六年)八月二日に領事職員の送達証明がなされ、同月一七日に書面裁判によりいわゆる欠席判決がなされ、これにつき故障の申立てが一か月以内にないことにより確定しているのであり、到底理解しがたいほどの迅速さと簡易さと慎重性を欠くやり方で形成されたものであって、執行許可を受けるに値しない。

5  公序良俗違反

弁護士強制及びそれに伴う敗訴者の弁護士費用強制負担の制度は日本に存在しないからこのような制度を前提とする本件外国判決の内容は公序良俗に反するものである。

6  相互保証の不存在

ドイツにおいては、日本の判決に基づく強制執行は認められないという見解が通説であり、ドイツの判決に基づく強制執行を日本において認めることは、相互保証の観点から許されない。

第三  当裁判所の判断

一  本案前の抗弁について

被告は、本訴の請求の趣旨が債務名義となる部分の特定性に欠けると主張するが、本件外国判決及び原告の請求の趣旨を見ても、本訴の請求の趣旨が債務名義となる部分の特定性に欠けるものであるとは認められないから、被告の右主張は理由がない。

二  本件訴状等の送達の適法性について

1  甲第六号証の一、第七、第九、第一〇、第二四証及び乙第四号証並びに弁論の全趣旨によれば、ドイツのベルリン地方裁判所において本件訴えに関する訴訟手続が開始されるに際し、翻訳文の添付された一九九四年(平成六年)五月一六日付け訴状謄本及び同年六月三日付け答弁書提出期限の催告書(本件訴状等)が、同裁判所の嘱託を受けた在東京ドイツ領事職員によって、被告の住所に宛てて書留郵便により発送され、右郵便が同年七月四日、被告従業員に配達され、任意の受領がなされたこと、右書類の郵送に際し、本件訴状等に加えて、本件訴状等が到達した後二〇日以内にこれが返送されないときは任意に受領したものとみなす旨をドイツ語で記載した領事職員名義の訳文のない書簡が同封されていたことが認められる。

2  日本及びドイツは送達条約の締約国であり、同条約八条一項によれば、各締約国は外国にいる者に対する裁判上の文書の送達を、強制によらないものに限り、自国の外交官又は領事官に行わせる権能を有するものとされている。右1認定の事実によれば、本件訴状等の送達は、在東京のドイツ領事により、日本の郵便法に定める書留郵便の方法で郵便吏員を通じて被告の従業員に任意に交付されたものであるから、送達条約八条一項に定める適法な送達であると認めるのが相当である。

3  被告は、送達条約八条一項に定める領事送達について、名宛人本人か又はその書類受領権限を有すると認められる者を直接領事の面前に任意で呼び出し、又は領事がその住所に訪問し、任意の受取をするかどうかを確かめ、これを肯定するときに手渡す方法に限ると主張する。

しかし、日本においてドイツ領事が送達条約上の任意交付の方法による送達を実施する場合に、領事が自ら受送達者と面会して交付する方法のほか、日本の郵便法に定める郵便による送付方法を用いることも、送達条約八条一項の禁ずるところではないと解される。この場合において受送達者が法人であるときは、使用人その他の従業者で郵便吏員において相当のわきまえがあると認める者に送達書類を交付することも認められるのであり、被告の右主張は採用できない。

4  被告は、本件訴状等の送達の際に、封筒の中に訴状及び呼出状のほか、到着後二〇日以内に領事に返送しないときは文書を任意に受領したものとみなす旨をドイツ語で記載した訳文なしの書簡が入れられていたことについて、日本人に対し、不案内なドイツ語で、二〇日以内に返送しないときは文書を任意に受領したものとみなす旨をドイツ語で記載した書簡を送付することは、任意の交付とはいえないと主張する。

しかし、本件訴状等は、二〇日以内に返送されなかったことによって送達されたとみなされたものではなく、郵便吏員によって現実に被告の従業員に交付され、右従業員が任意に受領する方法により送達されたものであり、しかも、訴状及び呼出状には日本語の訳文が付され、ベルリン地方裁判所からの訴状及び呼出状の送付であることが明らかだったのであるから、本件訴状等の送達が任意の交付の要件を欠いているものとはいえない。本件訴状等の送達の際に同封された、二〇日以内に返送しないときは文書を任意に受領したものとみなす旨の書簡は、送達書類受領者のもとに送達書類が渡った後二〇日間は送達が完了したものとする事務処理を差し控え、二〇日以内に送達書類が返送されれば任意に受領したものとは扱わないとするドイツ領事の事務の取扱いを説明したものにすぎず、しかも、このような事務の取扱い自体は、書類の任意交付を確認する事務手続として不当なものであるとはいえない。実質的にみても、本件においては、被告は、ドイツ語を解する者に尋ねさえすれば、二〇日以内に送達書類を返送する措置をとることも可能だったのであり、被告の業務内容並びに東京都内及びその近辺におけるドイツ語を解する者の人数からみて、訳文を付さない右書簡の同封により被告の防御権が損なわれたものと認めることもできない。

5  被告は、ドイツが送達条約八条二項に基づき、外国領事によりドイツ国内における送達について拒否宣言をしているので、条約法に関するウイーン条約二一条一項bに定める各加盟国の相互性の尊重の規定により、ドイツとしては、他国に対し、ドイツ領事の郵便による送達実施の適法性を主張しえないと主張する。

しかし、日本は、送達条約八条二項に基づく拒否の宣言をしていないために、日本において送達条約の締約国が同条約八条一項の送達方法をとることを拒否することができないのであり、日本が右拒否宣言をしないという選択をしたにもかかわらず、同条約八条二項に基づき適法に拒否宣言をした国に対し、その国が拒否宣言をする限りは日本での同条約八条一項の送達の効力を認めない、との解釈をとることは相当とはいえない。日本は、拒否宣言をする機会が与えられたのにこれを行使しなかったのであるから、右拒否宣言をした国との間で取扱いに差異が生じても、相互主義違反の問題が起こる余地はない。

6  被告は、本件訴状等の送達が直接手渡しを意味する「形式なしの送達依頼」によるべき旨のドイツ国内法秩序に違反している旨主張する。

しかし、被告の主張する右ドイツ国内法秩序が条約又は実定法の根拠のある解釈であると認めることはできないので、被告の右主張も理由がない。

三  本件外国判決の確定について

右二認定のとおり、本件訴状等の送達は適法であり、その後言い渡された本件外国判決は、ドイツ民事訴訟法一七五条に基づき適法に送達されたものであるから(甲第一、第二〇号証及び弁論の全趣旨)、その後の不服申立期間の経過により本件外国判決は、ドイツ民事訴訟法に基づき確定したものと認められる。

四  国際裁判管轄権について

甲第四号証及び弁論の全趣旨によれば、日本の法律に照らしても、本件外国判決に係る事件について、判決裁判所であるベルリン地方裁判所が管轄権を有していることが認められる。

五  本件訴状等の送達その他の訴訟手続における被告の防御権を実質的に侵害する事由の存否

1  本件訴状等の送達が適法な送達であったことは、前記二認定のとおりである。前記二の4に掲げる被告の主張は、右送達手続において被告の防御権を実質的に侵害する事由があった旨の主張とも解されるが、右主張が理由のないものであることは、前記二の4記載のとおりである。

2  被告は、被告に何らの弁明の機会も与えない手続である訴訟費用額確定決定の裁判は執行判決の対象にならない旨主張するが、ドイツ法における訴訟費用額確定決定は、わが国における訴訟費用額確定決定と同様に、本案判決で示された訴訟費用の負担の程度を定める裁判に基づいて数額を具体化する裁判であるにすぎないのであるから、訴訟手続のように相手方に実質的な防御の機会を保障しなければ執行の承認をしてはならない裁判には当たらない。被告の右主張は理由がない。

3  被告は、本件外国判決が一九九四年(平成六年)八月二日に領事職員の送達証明がなされ、同月一七日に書面裁判によりいわゆる欠席判決がなされ、これにつき故障の申立てが一か月以内にないことにより確定しているのであり、到底理解しがたいほどの迅速さと簡易さと慎重性を欠くやり方で形成されたものであって、執行許可を受けるに値しないと主張する。

しかし、被告の従業員に本件訴状等の交付がなされたのは一九九四年七月四日であること、ドイツにおける通常の欠席判決の故障期間は二週間とされている(ドイツ民事訴訟法三三九条一項)が、本件外国判決については、外国送達に係る事件であることを考慮して、ドイツ民事訴訟法三三九条二項の規定により、故障期間を一か月と定めていること、被告の従業員が本件訴状等を受け取った七月四日から起算すると、本件外国判決につき故障期間が満了したと考えられる同年九月一七日までの間に、七五日間の期間があること等の事実を考えると、本件外国判決の確定に至る手続が、被告の防御権を実質的に侵害しているものであるということはできない。被告の右主張は理由がない。

六  公序良俗違反の有無について

被告は、弁護士強制及びそれに伴う敗訴者の弁護士費用強制負担は日本に存在しないから、このような制度を前提とする本件外国判決の内容は公序良俗に反する旨主張する。

しかし、民事訴訟手続において弁護士強制及びそれに伴う敗訴者の弁護士費用強制負担の仕組みをとるかどうかは、訴訟手続に関する立法政策の問題であり、ドイツがそのような立法政策をとっているからといって、敗訴者に弁護士費用の負担を命ずる本件外国判決の費用額確定決定が公序良俗に反したものであるとはいえない。被告の右主張は理由がない。

七  相互保証の有無について

被告は、ドイツにおいては日本の判決に基づく強制執行は認められないという見解が通説であり、ドイツの判決に基づく強制執行を日本において認めることは、相互保証の観点から許されないと主張する。

大正一五年法第六一号による改正後の民事訴訟法二〇〇条の外国判決の承認の要件に関する規定は、民事訴訟法(明治二三年法第二九号)の大正一五年法第六一号による改正の際に規定されたものであり、従来の執行判決(明治二三年民事訴訟法五一五条)の規定を修正し、執行判決の規定とは別に、外国判決の承認の要件を定めたものである。右各規定は、いずれも、その当時のドイツ民事訴訟法にならって条文が作られたものである。すなわち、従来の執行判決(明治二三年民事訴訟法五一五条)の規定は、当時のドイツ民事訴訟法六六一条にならったものであり、大正一五年法第六一号による改正後の民事訴訟法二〇〇条の規定は、現在のドイツ民事訴訟法三二八条とほぼ同旨の規定である。

日本の民事訴訟法はドイツの民事訴訟法と極めて密接な関係を有するのであり、外国判決の承認の要件に関する規定も、右のとおり、その例外ではない。このような訴訟手続上の類似性からみて、日本の民事訴訟の判決手続が正当に理解されるならば、ドイツにおいて日本の裁判所の判決がドイツ民事訴訟法三二八条に規定する外国判決の承認の対象とならないとは考えられない。被告は、ドイツでは日本の判決に基づく強制執行は認められないという見解が通説であると主張するが、被告が通説として掲げる諸説が、どの程度日本の訴訟手続を理解した上での有権的解釈であるかは疑問であるといわざるをえない。原告提出に係る甲第一一ないし第一六号証の見解を正当と認めるべきものである。

ドイツにおいて、日本の裁判所の判決を外国判決として承認したことがないとの事実及び被告の挙示するような不確かな学説に基づいて、日本の裁判所がドイツの裁判所の判決を外国判決として承認しないという結論を採った場合、その判決は、ドイツの裁判所が、相互保証がないことを理由に日本の裁判所の判決を外国判決として承認しない原因となり得る。司法手続も国際化しつつある現在、日本の裁判所の判決を外国判決として承認した先例がないという理由を主な根拠として、日本の裁判所が、外国判決の執行の分野で、率先して外国の裁判所に対して門戸を閉ざす結果となる解釈を、軽々に採用すべきものではない。

被告の右主張は理由がなく、ドイツにおいては、財産法上の争いについての日本の裁判所の判決について、日本の民事訴訟法一一八条各号に定める条件と重要な点で異ならない条件のもとに効力を認める法制を採っているものというべきであり、日本とドイツの間には、互いの裁判所の判決の効力につき相互の保証があるものと認めるのが相当である。

八  結論

以上のとおり、本件外国判決及びこれに付随する訴訟費用額確定決定は、民事執行法二四条三項の定めに抵触するところがないから、原告の請求は理由がある。よって、これを認容することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官園尾隆司 裁判官永井秀明 裁判官瀬戸さやか)

別紙(1)

ベルリン地方裁判所

国民の名において

――欠席判決――

事務番号:九四・〇・一三四/九四

原告 バンクゲゼルシャフト ベルリン株式会社

被告 ミヤコシ商事株式会社

との間の保証にもとづく請求権に関する訴訟事件において

ベルリン地方裁判所商事部九四、一〇五三九ベルリン(シャロッテンブルク)、テーグラーヴェーク 一七―二一、は地方裁判所リンダ裁判長による一九九四年八月一七日付け書面事前手続において

以下のとおり判決する。

1 被告は、原告に対し

(a) DM 1.000.388,39及び

(b) USD 1.717.791,69

を一九九四年三月一〇日以降その都度の独連邦銀行公定割引歩合に年利5%を加えた率の金利を付加して支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 この判決は仮執行をなしうる。

4 被告の異議申立て期間は一カ月とする。

事実 〈省略〉

判決理由

本訴は適法でありかつ理由がある。

訴えの出されたベルリン地方裁判所は、両当事者が原告の選択に基づき、ベルリンを裁判管轄とすることに、合意したゆえに管轄裁判所となる。

被告の欠席を理由に民事訴訟法第三三一条第一項に基づき、原告の事実申立ては自白されたものとみなされる。これに基づけば被告は一九九三年七月一三日の保証により、原告の元にあるクラウン(ドイツ)有限会社の信用口座額の債務を負う。一九九四年三月一〇日における額は訴状1a)及びb)に記した金額に相当する。これに基づき被告に敗訴判決を下す。

原告の金利請求はクラウン(ドイツ)有限会社との与信契約、及び原告の普通取引約款に基づく。これに関しても保証を理由として被告に対する請求権が認められる。

費用決定は民事訴訟法第九一条、仮執行決定は民事訴訟法第七〇八条第二号に基づく。

リンダー

正本 裁判所印

司法事務官

別紙(2)

ベルリン地方裁判所 ベルリン、一九九四年一一月八日

商事部九四

事務番号 九四・〇・一三四/九四

決定

事件

原告 バンクゲゼルシャフト ベルリン株式会社

被告 ミヤコシ商事株式会社

一九九四年八月二二日に被告に、また同じく一九九四年八月二二日に原告に送達したベルリン地方裁判所一九九四年八月七日付け民事訴訟法第三三一条第三項に基づく判決により、被告が別紙及び下記算出に基づき原告に弁済する金額を38.188DM15Pf(参万八千百八拾八マルク拾五ペニッヒ)、これに一九九四年九月一五日以降金利四%加算、とするとの決定を下した。その余の請求を棄却する。根拠となる債務名義は仮執行をなしうる。

原告は催告にもかかわらず税控除前権を有していない旨の声明を出さなかったゆえに、付加価値税は付加されなかった。また各報酬額は一九九四年七月一日まで有効の連邦弁護士報酬法表に基づき算出された。超過額は付加されなかった。

シュタルク

司法補助官

本決定送達後一週間以内に決定された費用額が債権者に支払われない場合、本決定に基づき強制執行が直ちになされうる。裁判所現金出納所は支払額受取り権限を有しない。

本決定の根拠となる判決が保証を立てさせてのみ仮執行を許すときは、強制執行開始前に立保証または判決確定のいずれかが証明されなければならない。

正本

司法書記官 裁判所印

〈以下省略〉

別紙(3)

ベルリン地方裁判所 ベルリン、一九九四年一一月二二日

商事部九四

事務番号 九四・〇・一三四/九四

決定

係争

原告 バンクゲゼルシャフト ベルリン株式会社

被告 ミヤコシ商事株式会社

一九九四年一一月一八日付けの原告の異議に基づき、一九九四年八月二二日付けベルリン地方裁判所判決1による被告の原告への弁済追加額を3.299DM 78Pf(参千弐百九拾九マルク七拾八ペニッヒ)、これに一九九四年九月一五日以降金利四%加算、と決定する。根拠となる債務名義は仮執行をなしうる。

フールマン

司法補助官

〈以下省略〉

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